2020年10月、宮城県南三陸町の志津川湾を望む地区に南三陸ワイナリーの醸造所がオープンしました。ワイン用ぶどうの試験栽培から始まり、2017年に「南三陸ワイナリープロジェクト」としてスタートした取り組みは、遊休地を活かしたぶどう栽培を進めながら、地域拠点としてのワイナリー設立を目指してきました。「南三陸の食材に合うワインづくり」の事業構想を中心となって進めてきた、南三陸ワイナリー代表取締役、佐々木道彦さんにこれからの歩みについてお話をお伺いました。
仙台市内から車で1時間半ほど、青々とした志津川湾が眼の前に広がる場所に「南三陸ワイナリー」はあります。志津川湾といえば、タコや牡蠣などの有名な産地。「ここでつくるワインは、南三陸の食材と合わせて楽しめるよう、味わいは辛口を基本にしています。南三陸は豊富な海産物が自慢ですが、大きな括りで言えば三陸沿岸部はどこも同様に海の幸が豊富。その中で、南三陸町が養殖の発祥である銀鮭や、牡蠣、タコなど町の特産品を地場産のワインとマリアージュしてPRすることで、新しい南三陸の食文化を創り上げることができればと思っています」と佐々木さんは語ります。
また店内はお天気の良い日には太陽の光が差し込み、あたたかでやさしい雰囲気に包まれています。その柔らかさを演出しているのはなんと言っても「南三陸杉」を生かした什器たちです。
佐々木さんによると「南三陸ワイナリーは、「海の見えるワイナリー」として、漁港に近い水産加工場だった100坪ほどの建物を改修して醸造場を設立しました。併設の25坪の建物内のワインショップにはキッチンを設け、ランチやディナーなども提供しています。また人が集まる場として、地域木材を活用した木工品、水産加工品などを展示販売するショールーム的な役割も担う予定。森と里と海がつながる町の新しい営みとして、表現の場がようやくできるという思いです」とのこと。
キリコのエチケットをまとったワインと杉の木の相性は抜群。南三陸の美しい景観を彷彿させる店内レイアウトになっています。
また沿岸部らしさを生かした企画も次々と考えている佐々木さん。
「沿岸部らしさといえば、定期開催している海中熟成ワインを楽しむワイン会「牡蠣とワイン in 南三陸」もそのひとつ。海中熟成とは、ワインを海に沈めて早く熟成させる手法ですが、ワインを養殖用のネットに入れ、南三陸町・戸倉地区の牡蠣棚に吊るして沈めました。参加したお客様と一緒に、漁師さんからワインボトルにロープを結びつける技を教わったり、海水から保護するため、コルク栓をロウ付けしたり。みんな楽しんで作業していましたね。」
「震災後、沿岸部にボランティアとして訪れていたとき、住宅の基礎しか残っていない三陸の町並みを沢山見て「復旧はできても新しい事業を起こしていかないと復興はないのではないか。このままだと町そのものがなくなってしまうのでは」という危機感を持っていました。大手楽器メーカーで商品開発や新規事業を立ち上げる仕事をしていたので、新規事業で復興を後押ししたいと、2014年に会社を辞めて静岡県から仙台に移住しました」
「もともとワインは好きで、ボランティアで訪れていた秋保ワイナリーで南三陸ワインプロジェクトの取り組みを知りましたが、以前勤めた仙台の会社で、人気のワイン漫画『神の雫』の原作者(亜樹直)とともに日本人のためのワイングラスの商品開発を手掛けたことで、ワインの奥深さに触れたんです」
「例えば、ロックグラスは1つですが、ワイングラスはたいていペアで購入される。それは「ワインはコミュニケーションのための飲み物だ」ということなんですね。実際、ワインは話のきっかけになる要素が多い。同じ品種であっても地域や造り手が誰かによって味わいが変わるなど、造りや気候風土、文化などもストーリーとして語りやすく、話が膨らみ、ワインを通してみんな笑顔になるんです」
「収穫祭」としてぶどう畑でワインを楽しむイベントなども開催される「南三陸ワイナリー」。ワインを通じて、新しい人との出会いの場を生み出すことで、南三陸の新たな魅力づくりにも繋がっています。
「ワイナリーは地域の食や産業とつながりながら賑わいを生むことができます。2020年に開催した海中熟成ワインの会では、初の南三陸産シャルドネを使ったワインのお披露目も兼ね、南三陸のテロワージュを楽しんでもらえるよう、シェフを呼んでワインに合う料理を提供。南三陸町の牡蠣や放牧豚、リンゴの生産者さんも同席し、仙台や関東からの参加者と生産者さんはもちろん、業種の違う生産者さん同士も交流できたと喜ばれました。秋保ワイナリーの毛利さんの「テロワージュ」構想への思いは同じなので、ワインをきっかけにつながる場の役割も大事にしていくつもりです」
自身も先頭に立って、南三陸の食と風土、人の魅力を伝える「テロワージュ」に取り組む佐々木さん
「また地域の食材は和食で表現されることがほとんどなので、ワインに合わせ、洋食のアプローチで提供することで食材の味の再発見になるかもしれない。今後の商品開発にもつながっていくと思います。
以前の大手メーカーの仕事では購入者の反応をじかに知ることはあまりありませんでした。ワインは目の前で美味しい、楽しいといった笑顔があり、会話を交わすこともできる。個人的にもやりがいを感じています」
そしてオープンから2年弱。南三陸ワイナリーのお供として生まれた商品が「ピースオブ南三陸」です。「森 海 里 ひと いのちめぐるまち「南三陸」の取り組みや美味しさの一片(ピース)を感じてもらいたい。そのピースを組み合わせていくことで、生活にちょっとした安らぎ(ピース)を感じてもらいたい」そういった思いから、漁師でもあるワイナリーシェフ 佐藤将人さん監修の元、誕生しました。
ワイナリーのレストラン人気メニューの「牡蠣のバターパテ」のほか「銀鮭のコンフィ」など、南三陸で旨味を追求しながらも、環境に配慮して作られた食材を活かし、ワインに合うよう仕立てられています。
「南三陸町ではワイナリーはもちろん、事業としてのぶどう栽培も初めての新しい産業です。現在、入谷地区の畑(30a)に500本、歌津地区の田束山山頂の畑(1.9ha)に3100本、育てています。品種は試験的なものも含め、7品種を育てています」
「三陸海岸を一望できる田束山は、ツツジが有名で、「つつじ祭」もある観光地。山頂の畑で作業しながら眺める海は、毎日色合いが違って、会社のロゴに施したエメラルドグリーンの日もあれば、真っ青な日もあります。これまで応援いただいている方や初めての方も、収穫体験や収穫祭などで南三陸ワイナリーに来て、ぶどう畑から見える眺望をぜひ楽しんでもらいたいです」
天気によってみせる風合いを変える志津川湾
「南三陸ワイナリー(志津川地区)と畑(入谷、歌津地区)、海中熟成ワイン(戸倉地区)の町内4地区すべてで活動しているのも、できるだけ多くの人に関わってもらいながら、ワインツーリズムとして町を周遊できるように考えているんです。田束山山頂の畑の近くに宿泊施設も計画しており、南三陸ワイナリーが沿岸の観光拠点になるように手掛けていきます」
ワインを通じて、南三陸というまちの一層の発展を志す「南三陸ワイナリー」佐々木さん。ぶどうの栽培にはじまり、商品を作り出したあとの活用まで、一連の流れを通じて、南三陸というまち全体の素晴らしさを丁寧に伝えていらっしゃいました。今回はそんな南三陸ワイナリーから試行錯誤の末、生まれた「ピーズオブ南三陸」シリーズ2種とおすすめワインペアリングセット、その他人気のワインをご出品いただいております。
ご自宅で南三陸に抜ける爽やかな風を、ペアリングを楽しみながらぜひご体感ください。
※本記事は使用許諾をいただき、「東北・美酒と食のテロワージュ」内のこちらの記事をリライトしたものです。